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2018.12.01

SENSORY EXPERIENCE DESIGN  感覚を鍛え、感性を磨くーデジタル時代の生涯教育

Keynote speech@designship 2018 | Hibiya Mid town BASE Q, Tokyo

Part 1

こんにちは。阿部雅世と申します。今日は「Sensory Experience Design ―感覚を鍛え、感性を磨く、デジタル時代の生涯教育」という話を持ってまいりました。このテーマに至るまでに歩んできた道程と、今まさに真っ最中の取り組みや考えをご紹介することで、皆さんの間に新しい対話が生まれるきっかけになればと、思っております。どうぞよろしくお願いします。

 

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このデジタルドリブンの時代、仮想現実 VR や拡張現実 AR、ディスプレイ上の感覚体験技術の発展は目覚ましいものがあります。その一方で、自らが生きる環境を、生身の感覚で知覚する私たち自身の知覚能力は、どんどん鈍くなり、貧弱なものになっています。

 

バーチャル・リアリティーに対する、フィジカル・リアリティー。この感覚的な実体験を豊かにするのは、子どもの頃の好奇心や、環境の変化を敏感に知覚する感性、そして、見えないものに目を凝らして答えを見つける発見力や、まだ見ぬものを、思い描くための空想力です。

 

私は、デザイン教育の本然は、自らの生きる環境を分野を横断して、総合的に理解する力をつけること、そして、生活環境の質を、自らの感覚で判断する力をつけることにある、と考えています。そして、デジタル時代のデザイン教育は、感覚を鍛えたり、感性を磨いたり、発見力や、空想力を鍛えることに重きを置いた、すべての人にとっての生涯教育でありうるのではないだろうか、とも…。そのような考えのもと、新しいデザイン教育のあり方を模索し、そのプログラムづくりに取り組んでおります。

 

ここへ来るまでの道のりは、気が遠くなるほど長いのですが、日本を離れてもう長いですし、この会場にいらっしゃるのは、私の活動を知らない方がほとんどではないかと思いますので、ざっとダイジェストで、この考えにたどり着くまでの道のりをご紹介したうえで、本日の本題に入ろうと思います。

五感に響くデザインというテーマを掘り下げて

 

あらためまして、私は、1962年東京生まれ、建築出身のデザイナーであり、教育者です。五感に響くデザインというテーマを掘り下げて30年、感覚体験をベースにした分野横断型のデザイン教育づくりに関わって18年になります。1990年にイタリアにわたり、16年間ミラノを拠点とした後、2006年にベルリンに活動の拠点を移しまして、ちょうど人生の半分、28年目の欧州生活です。

 

法政大学の建築学科を卒業して、建築士として仕事についたのは、もう30年近く前のことです。当時は、二次元のスケッチや図面から始めるのではなく、線や面をつかって、空中に直接スケッチするということに挑戦しておりました。まだパソコンもなかった時代ですので、鉄線やパネルやそういうもので、モックアップを空中に組み上げていく、そんな三次元のスケッチから、デザインを構築していく。また、空間構成の要素として、音や気配という感覚を上手に取り込んだ設計 ―これはEndless house という三世代住宅の修作モデルですが―「声は聞こえるけれど、姿は見えない。」「姿は見えるけれど、声は聞こえない。」ことを意識的に取り込んで、都市型の住まいの中で、プライバシーを保ちつつ、人を孤立させないような設計はできないものか…、そんなことも模索しておりました。

 

1990年に、イタリアに渡りました。分野横断型の国際大学院としては草分け的存在であったミラノのドムスアカデミー Domus Academyの、工業デザインのマスターコースに参加するためです。それは、世界20か国から集まった20代のデザイナー、建築士、アーティストが、まだ答えのないデザインの課題にとりくむ、マスターコースでした。そこで、機能や性能ばかりが評価される工業素材に潜在する新しい感覚的な価値を発見し、その応用を模索する、そういうデザインの面白さにはまり、以降16年、ミラノを拠点として、さまざまな実験作品を作りました。また、伝統的な手工芸の手仕事を、生産のための労働ではなく、新しいデザインを生み出すためのプロセスととらえて、その潜在価値を探るための実験も、ずいぶんいたしました。手仕事のプロセスで発見したことを、新しい素材や、時代が求めるコンセプトに落とし込む実験を、プロダクトデザインから、テキスタイル、ファッション、空間デザインまで、様々なデザインの切り口で実践し、1990年から2000年にかけての10年の間に、自分なりのデザイン活動というものを確立しました。

 

2000年代には、デュポン社など、素材メーカーのために素材の新しい感覚価値を発見し、その応用を模索するようなプロジェクトも手がけるようになりました。またデザインの力で、新素材や先端技術の応用を模索するような実験的な研究活動にも、積極的に取り組みました。

 

先端の印刷技術で、感覚体験をどこまで豊かにできるか、ということを模索し始めたのは、そのころです。これは、当時は世に出てきたばかりのUV印刷の技術を応用した、800 dots という名前のブックカバー。HAPTICというテーマで原研哉さんが企画した、2004年の竹尾ペーパーショーのためにデザインしたものです。本のストーリーの中の「感覚」を、読者の目にではなく、手に直接伝えるブックカバー。本のカバーというのは、感覚的にストーリーの本質を伝える新しいメディアになりうるのではないか、という実験であり、提案でした。もう14年も前の仕事ですが、このような挑戦は、今も続いて

います。

感覚体験をベースにした分野横断型のデザイン教育

 

教育の世界には、2001年から、関わるようになりました。教える、というよりは、自分が一番面白いと思っている感覚体験デザインの新しい課題を、若い世代と分かちあい、共に取り組み、その課題に挑戦できる次世代を育てる―、そういうスタンスでの教育です。

 

2001年、フランスのサンテティエンヌ芸術大学に呼ばれて、デザインの学生のためのワークショップをやったのを皮切りに、2003年には、ローマ・サピエンツァ大学で、分野を横断型の参加者を募ったデザインワークショップを行い、フランスのヴァロリスでは、地元の高校生と職人さんとのデザインワークショップを行いました。2004年に、ベルリン芸術大学に客員教授として招聘されて、ハプティック・インターフェース・デザイン・インスティテュートHaptic Interface Design Institute という分野横断型の実験学科を設立し、ハプティック―さわり心地を軸にした、様々なデザインの研究プロジェクトを、集まってきた学生たちとともに展開しました。

 

触覚に名前をつける、ハプティック・ディクショナリー Haptic dictionary のプロジェクトや手触りの研究をベースにしたプロダクトの開発、工業素材のさわり心地を開発するプロジェクトなども、手がけました。

 

ベルリン芸大の後、バルト三国の最北の国、エストニアの国立芸術大学 で、2年間、プロダクト学科の主任教授を務めました。そして、その後も、ベルリンでワイセンゼー芸術大学や、新設のベルリン国際応用科学大の教授として、また欧州各地の大学の集中型のワークショップの指導者として、大学のデザイン教育に関わりながら、今日に至ります。

 

初めは、大学教育という枠の中で、感覚を鍛え、感性を磨くためのデザイン教育プログラムを、開発してきたわけですが、欧州各地の大学で試行錯誤を重ねるにつれ、この「感覚を鍛え、感性を磨くためのデザイン教育」は、デザイナーという専門職につく人だけのものではないな、これは、すべての人が、子どものうちから、生活のための一般教養の一つとして、身につけるべきもので、そのためのプログラムであるべきではないかと、強く思うようになりました。

子どもと青少年のための感覚体験デザイン教育

 

そうした思いから、2006年から、子供や青少年のための感覚体験をベースにしたデザイン教育プログラムづくりに、取り組み始めました。スタイリストになるための技術を学ぶデザイン教育ではなく、生活環境を理解し、その質を判断する力を、デザインのプロセスを体験しながら身につける教育です。

 

まずはできるところから、ということで、イタリアの職人とのデザイン・ワークショップの展覧会に幼稚園の子供たちを招待して、そのプロセスを紹介するレクチャー・ツアーをやったり、日本では、これももう10年以上も前になりますが、初台のオペラシティーや静岡で、身のまわりの自然を科学的に観察し、デザインの絵におこし、空想の森のインスタレーションをみんなでつくるスピリット・ガーデンSPIRIT GARDEN と名づけた子どものためのデザインワークショップをやりました。

 

イタリアでは、メラーノの市立図書館が主催する、子どものためのクリエイティブ・ワークショップに招かれて、地元の幼稚園や小学学校の子どもたちのために、さまざまなワークショップ・プログラムを開発し実施しました。これは、そのプログラムの中の一つ「香りの色 Colore di Profumo」という、香りから色を想像して、香りのカラーチャートをつくるワークショップです。

 

それから、2012年には、シンガポールのデザインカウンシルから、シンガポールの幼児教育、学校教育に、新しいデザイン教育を取り入れたいが力になってくれないか、というリクエストをいただきまして、その後、4年の時間をかけて、シンガポールの幼稚園、小学校、中学校のカリキュラムに取り入れるための新しいデザイン教育プログラムの開発に携わりました。

 

これは、そのプロジェクトの最初に行ったパイロット・ワークショップ。日本でも行った、スピリット・ガーデン Spirit Garden という幼稚園の子供たちのためのワークショップの様子です。身のまわりにある自然の要素を、科学的に観察し、色を分析し、形や模様の特徴をとらえ、できるだけ本物みたいに描いてみる…。そして、その要素を構成して、みんなで空想の森のインスタレーションとして、完成させました。

 

このほかにも、小学生、中学生を対象にしたパイロット・ワークショップも行いましたが、教育省と厚生省が合同で作った幼児教育に特化した新しい組織が、このプロジェクトに乗ってきたこともあり、それから4年かけて、幼稚園児のためのデザイン教育プログラムづくりを極めることになりました。

 

ドイツでは、EU欧州連合のプロジェクトPROUDというプロジェクトの枠組みの中で、デザイン・ミュージアムで展開する、青少年のためのデザイン教育のプログラムづくりをやりました。これは、7歳から10歳くらいを対象とした「Touch, Listen and Learn 」というプログラム。デザイン・ミュージアムの展示製品を最大限に活用し、それに「触れて、聴いて、デザインを学ぶ」プログラム。日常生活で日々触れているマテリアルに対する好奇心を喚起し、マテリアル・リタラシーを身につけるためのプログラムです。ここで、このワークショップのドキュメントを、ご覧いただきます。

 

さまざまな工業素材のさわり心地。つるつるしているのか、さらさらしているのか、ひんやりしているのか、温かいのか、柔らかいのか、硬いのか、素材のサンプルを、子どもたちと検証することから始めます。そして、それを熱伝導率が高い順に並べたりしながら、触感のひみつを理解したうえで、今度は、自転車のサドルや、シャワーヘッド、おしゃぶり、などなど、どれもデザイン賞を受賞した新製品ですが、そのような身近なプロダクトを触診します。ひんやりしているところ、温かいところに、柔らかいところ、硬いところ、つるつるしているところ、すべすべしているところ。それぞれどんな素材が使われているのか、たたいたり、こすったりしたら、どんな音がするのか…。こんな小さな製品でも、よく見たら、ずいぶんたくさんの素材で、できていることがわかります。

 

それから、次は、もっと大きくて複雑な工業製品に、全員で挑戦します。格好のいいプロ用の自転車です。硬い樹脂、柔らかい樹脂、ゴム、金属…。さわり心地の違いから、素材の違いを読み取り、それぞれに付箋をつけていきます。自転車3台も検証すると、教室の中のあらゆる素材が気になるようになります。

 

そして最後は、デザイン・ミュージアム内のツアーです。ガイドはつきませんが、子供たちは、自分で素材を追っていきます。世界最軽量のヘリコプターのシェルは、ものすごく軽い樹脂と炭素繊維でできています。大きなシャワーヘッドの水が出る小さな穴は、柔らかいシリコンでカバーされています。欧州の水は、石灰分の多い硬水なので、こういう穴は、石灰がたまって詰まりやすいのですが、ここを柔らかくしておくと、こするだけで、石灰を落とせまる。こんなデザインによる、ポイントも、子供たちは理解していきます。先ほど、2時間ばかりのワークショップを体験しただけなのに、ものの見方が、すでに、プロフェッショナルです。プロのデザイナーが、製品を検証しているかのように、製品の質を吟味できるようになるのです。そして、その魔法は、ワークショップがおわっても、家に戻っても消えません。歯ブラシ一つでも、どんな素材が組みあわさって、作られているのか、デザイナー並みに気になるようになります。これが、新しいデザイン教育の成果です。

 

このPROUD のプロジェクトでは、さまざまな年齢の青少年をターゲットに、感覚を軸にしたプログラムを開発し、実施しまして、最後には「Sensory Experience Laboratory感覚体験ラボラトリー」という展覧会にしました。これは、製品に触れて素材を知るためにデザインした、新しい展示什器です。ニットの袖口がついた、手を入れる穴がありまして、そこに両手を入れ、箱の中に吊ってある見えない製品を「触診する」のですが、その裏側は、こんな風になっておりまして、箱の中につるされた製品が、鏡に映り、まるで宙に浮いているようなショーケースになっています。実は、鏡に映っているとは気づかない人がいるほど、何か自然に、ホログラムか何かのように、製品が宙に浮いて展示されています…、が、向こう側にこの製品を触診しようという人が来ると、いきなり、にゅっと手が出てきて、製品を両手で触る。すると、こちら側からは、3Dのシミュレーションさながらに、いろんな角度から製品が見えるというしかけ。このように、教育プログラムだけではなく、そのために必要な道具や展示のデザインも手がけてきました。

生涯教育としての感覚体験デザイン教育

 

さて、ここからは、大人のための感覚体験デザイン教育についてです。この講演のタイトルを「感覚を鍛え、感性を磨く、デジタル時代の生涯教育」としましたが、感覚体験をベースとしたデザイン教育を生涯教育ととらえると、大人になっても、子どもの時のような感覚や感性を生涯維持していくことが、ゴールになります。それは、新しいデザイン教育によってなしうることなのか。これが、新しい挑戦です。

 

シンガポールのプロジェクトでは、新しいデザイン教育プログラムを幼稚園のカリキュラムに組み込むことが最終目標でしたので、Train the Trainers という、幼児教育者のためのデザイン教育プログラムも開発し、実施しました。

 

幼稚園の先生たちが、身のまわりの自然環境に対する科学的な観察眼を鍛えることは、子どもたちと同じものが見えるような力をつけるための第一歩。手とり、足とり、のプログラムです。また、自然の中に見つかる様々な要素を、編集し、プレゼできるだけのデザイン力をつけるための特訓も、手とり、足とり。芸術やデザインの教育を受けたことがあるわけではない、普通の幼稚園の、普通の先生たち。でも、本質的なデザインの知恵と技を身につけることで、こんなことができるようになります。子供にとって最良の教育環境をつくれるようになるための学びです。教室で、子どもたちが作ったものを展示する。ただ漠然と飾るのではなくて、子どもが作品に込めた発見や、驚きを、生き生きと伝えるような展示をする。デザインの技を身につければ、これができるようになります。

 

幼稚園にある材料や道具、紙やボードや糊やはさみやセロテープだけを使って、どれだけプロフェッショナルな展示ができるのか、その展示の質によって、どれほど、子供の創作の喜びを増幅させることができるのか、分かち合うことができるのか、そんなことも体験しながら学びます。

 

このマスタークラスに進んだ選りすぐりの8名の先生たちは、子どもにとても近いところにいて、どの大学生よりも熱心な、理想的な生徒でもありましたが、それでも、子どもだったころの感覚を取り戻すのには、それなりに時間がかかりました。感覚を取り戻してもらうために、様々な工夫を織り込んだプログラムを実施しました。大人が、もういちど小さくなることはできませんが、ならば、環境のほうを大きくしたら、自分の体が小さかった頃の感覚を思い出すことはできるかしら…。子どもが、葉っぱに向かっているときのプロポーションは、きっとこんな感じ。絵を本格的に描いたことなど、一度もなかった先生たちでしたが、3年間の教育と自主トレで、ここまで、自然を観察できるように、色が、パターンが見えるように、そして、それを描けるようになりました。一番大きな葉っぱは、大の大人が寄り集まっての共同作業です。デザイン・カウンセルのマネージャーたちも、いつのまにか加わっています。これは、ネイチャー・ディスカバリーセンターという自然教育園が会場だったのですが、ここでも、幼稚園で手に入る道具と材料だけで展示。できた。よくできました!

このようなことを試行錯誤しながらやってまいりまして、前紹介が長くなりましたが、さて、ここからが、今日の本題です。

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